「夢は無意識の王道」
この言葉はフロイトが展開していた持論です。
精神分析という心理療法の一分野を作り上げたジークムント・フロイトは1900年に「夢判断」という著書を出版しました
この夢を分析する作業は、精神分析の出発点ともいえる作業。だからこそ、夢は無意識の王道であると考えたのです。
夢は無意識の王道
心の中にある無意識の世界に足を踏み入れるには、色々な入口があります。
セラピールームや心理カウンセリングで行われる心理療法において、面接による対話だけでなく、箱庭療法や絵画療法、MSSM法や音楽療法、プレイセラピーなど多岐にわたる方法があるのを見ても分かります。
心理テストもロールシャッハやバウムテスト、その他多くの無意識を表現させる方法があることからも分かるでしょう。
そんな、無意識の世界に接触する方法として夢が一つの重要な道筋を作っているから、フロイトは夢は無意識の王道だと表現したのです。
夢を用いた自己分析というものは、フロイト自身が実際に経験したことからも分かるように、心の抵抗の壁を乗り越えることさえできれば無意識の世界最も身近に実感できるアプローチ法。
フロイトは夢を解釈する方法を確立した時、自分の成し遂げた功績がどれほど大きな価値があるかを確信していました。
フロイトの夢判断で語られる夢の働き
1900年に刊行された夢判断は、夢に関する学説と夢を解釈するための方法論をまとめたもの。
その中でフロイトは寝ている時にも起きている時と同様に働いているこころの作用を「夢の仕事」と呼びました。
では、フロイトは、どのようにして夢を理論的に体系づけていったのでしょうか。
夢はもともと、寝ている間に起こる精神的な活動です。人間は眠りに入ると起きている時の心の動きが低下していくもの。
つまり、人が睡眠に入るとき意識が低下した状態が起こるため、無意識の領域が意識の領域にとって代わることになります。
意識主体の過程から、無意識主体への過程への移行を精神分析では「退行」と呼ぶのですが、意識が退行していく中で無意識が優勢となっていく状態を指します。
この退行した状態に入ると心の中にある無意識的なものは抑圧が弱まっているのでそのままの形で意識に上ろうとしてくるということ。
しかしながら、今まで抑圧されていた無意識の中にあるものをそのまま、生々しく意識化することには抵抗があるため、わずかに残っている意識が検閲をかけてくる。
つまり、そのままの状態で意識化してしまうと心がつぶれてしまい崩壊する危険があるような自我を脅かす内容は夢の中でも禁止を受けるのです。
このわずかに残った意識が行う検閲があるため、無意識が現れてくる夢というものが変形する。そして、意識に上っても心がつぶれてしまわない程度にその無意識は加工されていくということ。
この一連の過程がフロイトのいう夢の仕事。
なお、加工される前の夢の内容は潜在思考、夢を見て思い出せる内容は顕在夢と呼ばれます。
実は夢の仕事によって無意識の領域で動いていた潜在思考は変形されます。つまり、夢の潜在思考は意識の検閲作用によって無意識的な願望、欲動、思考をそのままの形で夢に現れて意識されないように抑圧をかけられているということ。
このような無意識が現れようとても現れることができないという葛藤を解決するために、夢では、移動や圧縮、劇化や象徴化などといった変換が行われるのです。
フロイトの夢判断の解説
本来、夢は、無意識の世界が持っている現実世界では果たせない願望を充足させるという役割を果たします。
しかし夢の仕事によって加工されてしまっているので夢を見た後にその意味を考えても、しっくりくる解釈を読み取ることは難しいといえるでしょう。
その夢の意味の曖昧さについて、加工されたのであれば、加工の要領がわかると解読方法も分かるのではないかと考えました。
つまり、夢の解読方法がわかれば、その夢の無意識的な意味を理解することができるとフロイトは考えたのです。
ここでこの夢を解読する方法として採られる方法が、個別的方法というもの。
1つの夢の中にある一つ一つの要素について、その夢を見た本人に対して自由連想を行い、それらの連想の流れを最終的に再構成していく方法です。
自由連想とは、ある一つの言葉をクライアントが思い浮かべた時に、そこから連想されるものを次々とセラピストに語っていくというもの。
語っていくうちに、無意識的な状態が強くなり、無意識にある理解に到達できるという手法です。(関連記事:フロイトの精神分析における自由連想法とは、催眠療法が基本にある)
一方、それだけでなく、古来から夢占いなどに見られる類型的な方法も用いられることがあります。
この方法は、夢の中の要素を象徴としてとらえて一般的な象徴解釈を当てはめていくアプローチ。フロイトは夢の顕在内容、つまり夢として見たことに一定の定型性があることを主張しました。
少し例をあげてみましょう。
- 男性を象徴する表象:ネクタイ、帽子、街頭、ヘビ、部屋を開けるカギなど
- 女性を象徴する表象:カタツムリ、買い、白い下着、木材、海など
- 子供や兄弟姉妹を象徴する表象:小動物、害虫
- 誕生を象徴する表象:水中への転落、自らはい上がる、人を水南から救う、自分が救われる
- 死を象徴する表象:旅立ち、鉄道旅行など
このように夢を解釈する方法には、個別的方法と、類型的方法がありますが、特にフロイトが重要視したのははじめに述べた個別的な方法の夢判断。
ひとりひとりの体験してきた歴史に沿って夢を解釈し判断することが重要だとします。だから自由連想を利用して夢に現れたその無意識的な意味を理解してくことを大切にしたのです。
フロイトの夢判断とは精神分析の出発点
フロイトが夢判断を刊行し、精神分析を成立させていったはじめのころ、科学的世界観に立脚して患者としてのクライアントだけでなく、自分の心の中の暗闇に真正面から取り組みました。
フロイトとフロイトが作り出した精神分析は、時として、むつかしい言葉や、わかりにくい技法、原則に厳しい方法で性的な部分に偏った理論としてみなされます。
ですが、夢判断を理解すれば分かるように、夢は無意識の世界から現れるもの。全人類的な視点での無意識、つまり夢占いような類型的判断から理解できる集合的無意識もあれば、個人の経験や信念から生まれる自由連想から理解できる個人的無意識もある。
性的な方向に偏りがちなのは、種の保存という本能が遺伝子的に生き物としての人の心の中に刻まれているから。全ての人が持っている抑圧された欲望なので、夢の中で表現されていくことが多いのは当然とも言えます。
ですが、PTSDやトラウマなどは、個人的な体験が元になっていることが多いもの。そう考えれば、類型論で海や大地が出てきたら女性だいうように、A=Bと決めつけてしまうのは短絡的だといえるでしょう。
ここに、フロイトが自由連想による夢判断を重要視した理由が見えてきます。
そして、その夢が無意識を現しており、自由連想でその無意識を明らかにすることができるのであれば、自由連想で無意識の中に眠る抑圧されたものを見つけ出すことができることになる。
これが、のちにフロイトの精神分析につながっていったということ。夢判断という手法をクライアントに使い、フロイト自身の夢を判断することで、その理論を体系化して精神分析につながっていったのです。
まとめ
以上、「夢は無意識の王道!フロイトの夢判断とは精神分析の出発点」を神戸ヒプノセラピー、催眠療法のベレッツアがお伝えしました。
現代におけるフロイト学派の人々は、そのフロイトの考え方を本質的に受け継いでいます。つまり夢を別個に取り上げて夢の判断、解釈を行っていくのではなく、セッションの中でクライアントを見つめる一つの手段として活用しているということ。
ヒプノセラピーも、現れてきた無意識のイメージを読みの一つとして活用することはあっても、類型的に判断することをせず、個別的にその人の独自的なイメージとしてとらえます。
いくらフロイトが催眠から離脱しよう、科学的に立証しようと考えていたとしても、催眠を使う心理療法、ヒプノセラピーが精神分析の原型。フロイトが否定しようとしたとしてもヒプノセラピーの手法や考え方がフロイトが作り出した精神分析に役立っているということは否めないのではないでしょうか。
(関連記事:ジークムント・フロイトの精神分析学の基礎となる無意識の発見とは)
コメントを残す