突然、雷に打たれたように過去の記憶がよみがえるフラッシュバック。
そんなフラッシュバックとは病気なのでしょうか。
フラッシュバックが起こるときにみられるその症状とフラッシュバックの診断方法とはどのようなものなのでしょうか。
過去の記憶がいきなり現れるフラッシュバックについて見ていきましょう。
フラッシュバックとは
フラッシュバックとは、ある時、突然降ってわいたように、以前に体験したことを、まるで時間が戻って、いま、そこにいるかのように思い出されること。
フラッシュバックが起こる原因は、心に留めておくことが苦しい経験のうち、ありえないような強烈な衝撃を受けた体験。
嫌な思い出を思い出すような余裕のある思い出しかたではなく、フラッシュバックは豪雨をせき止めていたダムが一気に決壊してあふれ出したような思い出しかたです。
思い出すのが嫌な記憶は、普通心の奥、無意識と呼ばれる部分にしまい込まれているので、寝ている時に見る夢や思い出の品を見た時などのきっかけがあるときにしか思い出すことがありません。
これは心の防衛機制が働いている証拠で、無意識というこころの器が満タンになった時に、ちょろちょろあふれ出すようにできている、安全弁なのです。
ですが、とても心に抱えきれないような強烈で苦しい記憶は、その無意識にためておく時に生じるストレスのたまり方がハンパなくガンガン溜まっていきます。
そうすると、どうなるのかというと、無意識と意識の間にある心のダムが決壊して、その時の記憶が一気にそして鮮明にあふれ出すのです。
この一連の流れがフラッシュバックが起こる心のシステムです。
フラッシュバックは病気なのか
ところで、このようなフラッシュバックなのですが、PTSDと呼ばれる心的外傷後ストレス障害が原因。
ここから見ると、PTSDの症状の一つとして考えられるので、フラッシュバックは精神的な病気だといえるでしょう。
ですが、フラッシュバックは、心の中にある無意識のコップが満杯になるかどうか、そのスピードの違いだけ。
嫌な体験をした記憶は、フラッシュバックと呼ばれなくても思い出すし、その思い出した場面はフラッシュバックでなくても鮮明です。
また、フラッシュバックは心的外傷後ストレス障害と呼ばれるPTSDや急性ストレス障害と呼ばれるASDによる症状の一つですが、フラッシュバックが起こるからPTSDやASDだというわけではありません。
フラッシュバックの外に、回避と呼ばれる無意識にその場面を避ける行動が現れたり、過覚醒と呼ばれる不眠・集中困難・すぐに不機嫌になる易刺激性などが同時に起こることでストレス障害となるのです。
たったこれだけの違いで病気か病気でないかと区別するのはいささか乱暴ではないでしょうか。
自閉症もスペクトラム障害となった通り、フラッシュバルブにもスペクトラム的な、連続的な段階があります。
フラッシュバルブが起こったから、「はい、あなたはPTSDですね。薬を飲みましょう」的な診断が正しいわけではありません。
たしかに、抑うつ障害や双極性障害、不安症候群などと併発することが多く、激しい不安感や回避、過覚醒も起きることがあります。
ですが、フラッシュバックは、精神的な病気であるパニック症や全般不安症では起こりえない症状。つまり、フラッシュバルブだから病気であるとは言えないのです。
ここで、万が一フラッシュバルブの原因が心的外傷後ストレス障害にあったとした時には、治療となります。
PTSDの治療となれば、薬物療法として、ジェイゾロフトと呼ばれるセルトラリンやパキシルと呼ばれるパロキセチンのようなうつ病にも効果があるSSRIが処方されるでしょう。
セロトニンを増やすことで感情の高ぶり、必要のない興奮をおさえる役割を果たします。これらのセロトニンを増やす抗うつ薬は昔の抗うつ薬に比べると格段に副作用が少なくなっているといえるでしょう。
また、臨床的な精神療法・心理療法も役に立ちます。
ただし、心理療法中にフラッシュバックが起こり患者さんが圧倒されてしまい、さらにフラッシュバックを強化させてしまうこともあるので、セラピスト選びは慎重に行わなければいけません。
フラッシュバックの症状
フラッシュバックは、その時に見た情景やその時に聞いた音や声、そして、恐怖などの感情や痛みや触覚、味覚なども再現されます。
その場面のこと全ての情報が記憶されているので、どんなにうまく表現しようとしても言葉では言い表すことはできないというのがフラッシュバックで再現される記憶の特徴。
普通の記憶は、時間とともに薄れていくのですが、フラッシュバックのもととなる記憶は何回も再生されることでより鮮明に、そしてより強烈な記憶へと変化するということ。
また、この記憶が強化される過程において記憶そのものがすり替えられることもあります。
その例として、アメリカの9.11で飛行機がビルに突っ込んだ映像を見たという人に対して1機目の突っ込んだ映像を見たかどうかという質問についてお話ししましょう。
その答えに対して帰ってきた答えのうち70%近くの人が1機目がビルに衝突した映像を見たと答えたのです。1機目がビルに激突した映像が存在しないにもかかわらず、です。
このように、より強烈で過激な方向にすり替えられて強化されていくのが記憶の特徴。
だから、フラッシュバックは起これば起こるほど深みにはまっていき、より激しいフラッシュバックとなってその人を襲い掛かってくるのです。
フラッシュバックの診断方法
フラッシュバックかどうかを診断する方法は次の項目に当てはまるかどうかで行われます。
フラッシュバック自体は、病気ではないので診断という言葉よりも、判断の方があっているかもしれません。
- 死に直面するような衝撃的な出来事を体験したり目撃したりしている
- 自分の気持ちの中で心的外傷(トラウマ)体験の整理がついていない
- 自分の意志に反して頭の中にその状況が再現される(侵入)
- 何度も侵入が起こる
また、フラッシュバックのもとになるPTSDかどうかの診断もフラッシュバックの診断の参考となります。
PTSDかどうかは大きくは次の3つで診断します
- フラッシュバックの有無
- 回避行動の有無
- 過覚醒の有無
また、細かい診断をしようとする場合、次のような事項も参考にして診断されます。
- 過去に強いストレスを感じる出来事を体験又は目撃している
- 恐怖感や無力感を感じる
- 感情の萎縮などの症状が1カ月以上持続している
- 社会的かつ精神的に機能障害を起こしている
- 日常生活や社会生活に大きな障害が出ている
フラッシュバックの原因となる心的外傷後ストレス障害PTSDは治療を受けなくても約30%の人は心の中の免疫機構である浄化作用が働き、完全に回復しています。
さらに、1年後には約50%の人が回復するというデータがあります。
回復する人の傾向は、症状が早期に現れること、症状の持続が半年以内と短いこと、強力な社会的支援を持っていること、他の病気や心理的に追い込まれるようなことが無いこと。
もし、フラッシュバックから立ち直りたい、回復したいと思うなら、我慢するのではなく早いうちに対応している方がいいということです。
参考:嫌な記憶がフラッシュバック!泣くほど辛い時の対処法とは
フラッシュバックへつながるPTSDの診断方法(ICD-10)
ICD-10とは、疾病及び関連保険問題の国際統計分類、略して、国際疾病分類のこと。
世界保健機関WHOが死因や疾病の国際的な統計基準として公表しているものです。厚生労働省のホームページに障害及び死因の統計分類として掲載されています。
ICD-10によると、フラッシュバックは外傷後ストレス障害の典型的症状。
払っても消えない思い出として外傷の再体験を反復するエピソードがフラッシュバックとしています。
外傷後ストレス障害は、ほとんど誰にでも広範な苦悩を引き起こしそうで、極端に驚異的または破局的な性質を持ったストレスの多い出来事又は状況に対する遅延または遷延反応として生じるとあります。
難しい言い方をしていますが、簡単に言うと、ほとんど誰にでも起こることで衝撃的でストレスフルな事件に遅れて反応することと言えます。
なお、厚生労働省のICD-10では心的外傷ストレス障害の前の段階として急性ストレス反応があげられています。
この急性ストレス反応は、一過性の障害で精神障害がない人でも精神的なストレス反応。
ぼうっとした状態になり、意識や注意できる範囲が狭くなって、刺激を理解できなくなるのが急性ストレス反応。
「今がいつか」、「ここがどこなのか」という時間や場所がわからなくなる見当識障害という症状も起きるのが急性ストレス反応です。
参考:嫌なことばかり思い出す原因とは!フラッシュバックの原因を徹底究明
DSM-5によるフラッシュバックのもととなるPTSDの診断基準
DSM-5とは精神障害の診断および統計マニュアルの第5版。
精神病理のいろいろな診断基準が記載されています。
フラッシュバックが起こることは健康な人でも起こる自然なことであり、病気ではないので、診断はできません。
ですが、それに続くPTSDかどうかの診断基準は次のように記載されています。
- 死にそうな目に合ったり、受賞を負った理性的暴力を受ける出来事のうち、次のもの
- その出来事を直接体験する。
- その出来事を直接目撃する。
- 近親者が偶発的、暴力的な心的外傷的な出来事にあったことを聞く
- 遺体収容対応員など心的外傷的な出来事の不快な部分に何度も極端にさらされること
- トラウマチックな出来事に触れた後フラッシュバックが何度も起こること
- トラウマチックな出来事が何度も意識せずに襲い掛かるように思い出されること
- 心的外傷的な出来事に関連している悪夢を何度も見ること
- 心的外傷的出来事が再び起こっているようなフラッシュバックが起こること
- 心的外傷的出来事から受ける心理的な苦痛
- 心理的外傷的出来事に近いきっかけでドキドキしたり落ち着かなくなったりと生理的な反応が生じること
- 経験したトラウマチックな出来事を無意識的に避ける行動が現れる
- 関連する苦痛な記憶や思考、感情または、それに関連するものを避けようとすること
- 心的外傷的出来事に関連した認知とそれによる気分の落ち込みがその出来事の後に現れ悪化すること
- 苦痛な出来事を思い出せない
- 自分や他人、または世界に対して否定的な想いを強める
- 苦痛な出来事の原因や結果をゆがめて認識する
- 常に恐怖や旋律を感じたり怒りっぽくなったり罪悪感や羞恥心が増強される
- 大切な活動への参加意欲の喪失
- 孤立感の増幅
- 楽しい気持ちを長く持続できない
- 起伏の激しい感情の変化が現れ、悪化する
- いら立たしさと激しい怒り
- 無謀で自己破壊的な行動
- 行き過ぎた警戒心
- 過剰な驚きの反応
- 集中力の減退
- 眠れない
- これらの障害が1カ月以上持続している
- これらの障害が生活上、社会上の活動を阻害している
- これらの障害は薬物やアルコールが原因ではないこと
これらのことに当てはまるとDSM-5によれば、PTSDと判断されます。
ただし、DSM-5は自己判断の基準ではなく、他人から見て、つまり医者から見てどうなのかという判断。だから、自分で「あ、これ私のことだ」なんて判断しないようにしましょう。
フラッシュバックとフラッシュバルブ記憶の違い
フラッシュバックと似た言葉でフラッシュバルブ記憶というものがあります。フラッシュバックとフラッシュバルブ記憶とは似ているようで若干違うので注意しましょう。
フラッシュバルブ記憶とは日本語で閃光記憶と呼ばれるものでその場面が雷の閃光のようにバシッと思い浮かぶ記憶。
フラッシュバルブ記憶は、その場にいるような思い出し方や、もともとの場面から変化していきゆがみが生じる点についてはフラッシュバックと同じだといえるかもしれません。
ですが、フラッシュバルブ記憶は、個人的なトラウマ的体験だけでなく社会的に衝撃的な出来事が起こった時の記憶も含まれるのです。
なので、フラッシュバックとは、その人が体験した記憶のうちトラウマ的なものに限定されますが、フラッシュバルブ記憶は世間的な話題になったことも原因となるということ。
特に、フラッシュバルブ記憶はその人のコントロール下にあることが多く、本人の意思にかかわらず思い出してしまうフラッシュバックとは違うものだといえるでしょう。
参考:最古参「ヒプノセラピー(催眠療法)」と最先端「認知行動療法」の共通点とは
まとめ
以上、「フラッシュバックは病気なのか?その症状と診断を徹底解説!」を神戸ヒプノセラピー、催眠療法のベレッツアがお伝えしました。
フラッシュバックが起こってもそのこと自体は病気ではないのですが、つらい体験を何度も思い出すことは精神衛生上もいいことだとは言えません。
もし、フラッシュバックが頻繁に起こり耐えられないようなら、早めに病院に行くか心理療法を受けるようにしてはいかがでしょうか。
長引けば長引くほどより強烈なフラッシュバック体験が降りかかってくるのですから。
参考:心理カウンセリングやセラピーと心療内科(病院)との違いとは
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