こんにちは。
神戸ヒプノセラピー、催眠療法のベレッツアです。
人は年を取ると自分がついた嘘を本当のことと思い込むようになるというアメリカの研究結果があります。
高齢者は、認知機能が低下し物忘れが多くなる一方、思考が固まり、明らかに嘘だとわかることでも自分の意見を曲げない場合も少なくありません。
過去の出来事や現在の状況について間違った記憶によって話したり行動したりすることを作話といい、作話は記憶障害の一種。
あなたも高齢者が話しを続ける中で、とても信じられない作話に直面することに出会ったことがあるかもしれません。
物忘れと作話は、老人によくみられるもの。
この物忘れの対極にある作話という記憶の障害はなぜ起こるのでしょうか。
なぜ人は年を取ると自分がついた嘘を本当のことと思い込むようになるのか
人は年を取ると自分が突いた嘘を本当のことと思い込む
人は年を取ると、自分が突いた嘘を本当のように思いこむことがよくあります。
これは、高齢者によくみられる現象。
高齢者の養護施設では、財布のような貴重品がなくなったという話をよく聞きませんか?
でも、実際は別の場所、ともすれば鍵のかかった引出しから出てきたりするのですが、高齢者本人は、誰かが自分の財布を取ってそこに入れたのだと言い張ります。
この話は、作話といってもいいものですが、高齢者にとっては不思議なことではありません。
というのも、アメリカのブランダイス大学に所属するアンジェラ・グッチェスという認知科学と社会神経科学が専門の心理学准教授らの論文では次のように論じられています。
高齢者(60~92歳)を対象とした研究で嘘をついてからどれくらいで本当のことと思うようになるのかという実験をしたところ、その時間はたったの45分だった。
たった1時間足らずで、高齢者は本当のことと自分が作り上げた作り話との境目がわからなくなるのです。
グッチェス準教授らの実験
この高齢者がどのくらいで自分のついた嘘を本当のことだと思うようになるのかという実験はグッチェスらによってなされました。
その実験の方法は、まず成人で若い18~24歳の人21人と、60~92歳の高齢者の人が21人の42人に102問の質問をすることから始まります。
質問の内容は、朝に目覚まし時計のスヌーズ機能を使ったか?とか、昼食でフォークを使ったか?といった簡単なもの。
この時、質問に対する回答のうち半分について嘘をついてもらうのです。
同時に脳波を測っていますので、実験参加者が嘘をついているのか、それとも本当のことを言っているのかがわかる仕組み。
もちろんこの回答での脳波は、真実半分、嘘半分を示します。
次に45分経ってから、同じ質問に対して、嘘をつかずに回答してもらうのがこの実験のおもしろいところ。
この時の脳波と回答を分析すると、若い成人のグループに比べて高齢者のグループが自分がついた嘘を本当のことだと思っている割合が非常に高いという結果になりました。
(出典:Influence of age on the effects of lying on memory)
記憶はうそによって書き換えられる
嘘をついたという記憶は、自分で作り上げた間違った記憶。
この間違った記憶は、思い込みなどと同じ効果があります。
グッチェスらの実験では、本当のことを言った後に本当のことを答えるというパターンでは、年齢による差はありませんでしたが、嘘をついた後に本当のことを話して欲しいと頼んでも嘘を答えるのが高齢者。
つまり、高齢者は認知を制御する機能が衰えているので、嘘をつくことで正しい情報と誤った情報の二つを保持することができず、正確な記憶を書き換えてしまうのです。
この認知機能はワーキングメモリという一時的に保管する記憶の領域に関するもの。
高齢者は、嘘と本当のことを繰り返しているうちに、ワーキングメモリの領域が混乱し、実際に何が起こったのかわからなくなるのです。
そして、自分がついた嘘の方が新しい記憶なので、親近効果で思い出しやすい記憶。
だから、自分がついた嘘をありありと思い出せるから、真実だと思い込む。
記憶が嘘で書き換えられるのは、認知機能が低下しているがゆえに起こること。
高齢者は嘘を嘘だと覚えていることができないために、記憶を改ざんしてしまうのです。
(関連記事:記憶のメカニズムを心理学で解明する。~記憶の種類とは~)
自分が突いた嘘を本当のことと思うのは高齢者だけではない
それでは、この記憶が書き換えられることは、高齢者だけのことだといえるでしょうか。
その答えは、先ほどの実験結果に現れているように、「NO」であり、高齢者に限ったことではありません。
嘘だと思い込む高齢者の割合が高いだけで、若い人でも嘘を本当のことと思い込む、作話をする人はいるのです。
この理由は、ワーキングメモリの領域の容量が決まっていることが原因。
他のことについて考え事をしたり、悩みごとがあったりすると、ワーキングメモリが嘘をついたこと以外のことに撮られてしまうため、高齢者同様、記憶があいまいになります。
ということは、親近効果で自分でついた嘘を本当のことだと錯覚し、思い込んでしまうということ。
実はこのはなしは、ヒプノセラピーにも使える理論。
どういうことかというと、催眠とは、意識状態を低下させた変性意識状態に入ることだからです。
(関連記事:最古参「ヒプノセラピー(催眠療法)」と最先端「認知行動療法」の共通点とは)
嘘を本当のことと思うこととヒプノセラピーとの関係
このワーキングメモリの低下が嘘を本当のことと思い込むことにつながるという理論は、ヒプノセラピーと同じ理論。
なぜなら、ヒプノセラピーは、催眠状態という、意識が混乱した変性意識状態において無意識下の記憶の意味付けを変える作業だから。
ヒプノセラピーでは催眠状態という、意識レベルが低下した状態にはいるため記憶への接触が容易になります。
高齢者が嘘を本当のことだと思い込むように、否定的な記憶の意味付けを肯定的に変えることができるのがヒプノセラピー。
高齢者が嘘を本当のことだと思うこととヒプノセラピーとの違うところは、ヒプノセラピー中に、相談者がいつでも、何が正しいのか判断しているところ。
高齢者がつく嘘は高齢者自ら話している事であり、一貫性の原則から逃げることができず、嘘を信じるしか道が無くなります。
ですが、ヒプノセラピーの中で相談者が気付いたことは、嘘ではなく肯定的な真実。
ヒプノセラピーは嘘を本当だと思い込ませるのではありません。
否定的な思い込みを肯定的な真実としてとらえることがヒプノセラピーの目指すところ。
つまり、相談者の肯定的な気付きと記憶の意味付けをつなぎ合わせる歴史ある心理療法がヒプノセラピーです。
(関連記事:催眠療法の歴史。不安や悩みを取り去る催眠療法は心理学の生みの親)
まとめ
以上、「人は年を取ると自分がついた嘘を本当のことと思い込むようになるのか」についてお伝えしました。
高齢者がつく嘘を高齢者自身が信じ込んでいるという場面は、高齢者に接している人なら一度は出会うこと。
高齢者の信じこんだ嘘で悩まされないようにするには、高齢者に嘘をつかせないことが大切です。
また、この嘘に腹を立て、ぼけているとか、痴呆だとか、記憶障害だとか言い続けていると、高齢者はそれが本当だと思い込み、いつの日かそれが現実になるでしょう。
(関連記事:サクセスフル・エイジングとは何か。心理学での定義と意味の説明)
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